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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)202号 判決

名古屋市千種区霞ヶ丘1丁目7番13号

原告

若江谷政彦

東京都日野市旭が丘4丁目7番5号シティハイツ2号棟811号

原告

若江谷新治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

小川宗一

小池隆

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告ら

特許庁が、平成8年審判第14194号事件について、平成9年6月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1項と同旨

訴訟費用は原告らの負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、平成3年1月7日、名称を「鉄道車両の輪軸、車輪及び軌道の敷設方法」とする発明にっき、特許を受ける権利の共有者として共同で特許出願をした(特願平3-59799号)が、平成8年7月19日に拒絶査定を受けた。

同年8月22日、上記拒絶査定に対する不服の審判請求(以下「本件審判請求」という。)がなされたが、その審判請求書には、請求人として原告若江谷政彦(以下「原告政彦」という。)のみが記載され、原告若江谷新治(以下「原告新治」という。)の名は記載されていなかった。

特許庁は、同請求を平成8年審判第14194号事件として審理したうえ、平成9年6月27日、「本件審判の請求を却下する。」との審決をし、その謄本は、同年7月13日、原告政彦に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、本件審判請求は、特許法132条3項の規定によって、特許を受ける権利の共有者全員が共同して請求しなければならないところ、その一部の者である原告政彦によってなされたものであるから不適法な請求であって、その欠缺は補正することができないので、同法135条の規定により却下すべきものとした。

第3  原告ら主張の審決取消事由の要点

審決は、法令の解釈を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  発明者の特許を受ける権利は、その苦心研究の成果を保護するとともに、優れた技術知識を世に公開して、技術の進歩、産業の発達に役立たせることを目的とする特許制度存立の根本趣旨に由来するものである。そして、特許法の審判請求の制度の目的の1つは、一旦は拒絶査定を受けたこのような発明者の特許を受ける権利を、特許権として成立させようとすることにある。

原告ら両名は、共同して本件審判請求をしたものであり、審判請求書に請求人として特許出願人全員の記載がなかったという規定違反により、審判請求が特許法135条所定の不適法な請求で補正をすることができない場合に当たるとして、これを却下する審決をすることは、特許制度存立の根本趣旨にも、審判請求の制度目的にも反するものである。このような規定違反は、特許法32条(平成6年法律第116号による改正前のもの。以下同じ。)各号所定の不特許事由のいずれにも該当しないのであるから、特許法133条1項(平成8年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき、請求書についての補正を命じて、補正の機会を与えるべきである。

したがって、審決には、法令の解釈を誤った違法がある。

2  原告ら両名は、住所地が離れているうえに多忙であって、本願出願後、手続補正書等の作成に十分な時間がとれなかったため、最初の手続補正の際に、特許庁に問い合わせたところ、原告ら両名のうちいずれか1名が作成すればよいとのことであったので、事後、手続補正書や意見書の作成提出は、原告政彦のみの名義で行ってきた。本件審判請求に当たっては、拒絶査定の謄本に添付された「拒絶査定(特許)注意書」(以下「本件注意書」という。)の「審判請求書の様式及び作成要領について」と題する部分の記載に則って審判請求書を作成して提出したが、本件注意書には、特許法132条3項に関する注意が全く記載されていなかったため、審判請求書は、従前の手続補正書や意見書の作成の場合にならって、原告政彦のみの名義で作成したものである。

特許出願手続は、弁理士である代理人を介さず、出願者本人で行うこともできるとされているのであるから、特許法132条3項の要件を満たさない審判請求が同法135条所定の不適法で、かつ補正をすることのできないものに当たるとするならば、そのような重要事項は、素人である出願者本人が誤ることのないよう、本件注意書に、同法132条3項に関する注意を記載するか、そのような注意を記載する余裕がないのであれば、出願者本人を誤らせるような不完全な記載をせずに、特許法第六章の各条を参考にして審判請求書を作成すべき旨、あるいは審判請求は弁理士に依頼すべき旨を記載すべきである。

したがって、本件審判請求に係る審判請求書に、請求人として原告ら両名の記載がなかったという規定違反は、特許庁の特許行政の進め方にも大きな原因があり、その不利益を審判請求人である原告らのみに帰することは、特許制度存立の根本趣旨からしても、審判請求制度の目的からしても誤りであって、審決には、法令の適用を誤った違法がある。

第4  被告の反論の要点

審決の判断は正当であって、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

原告らが主張する特許制度の趣旨及び審判制度の目的は争わない。

しかし、本件審判請求に係る審判請求書には、請求人として原告政彦のみが記載され、原告新治が共同請求人である明示の記載がなかったことはもとより、それを窺わせるような記載も一切なかったから、本件審判請求は、原告政彦によって単独でなされたものといわざるをえない。

そして、このように、審判請求書の記載により、本件審判請求が原告政彦によって単独でなされたものと認められる以上、その審判請求書の請求人の記載を原告ら両名に補正することは請求書の要旨を変更することに当たるものになるところ、特許法131条2項により、そのような補正は許されない。

したがって、本件審判請求が同法132条3項に反する不適法な請求であって、その欠缺は補正することができないとして、同法133条1項所定の補正命令を行わずに、同法135条により本件審判請求を却下した審決に原告ら主張の違法はない。

2  取消事由2について

本件注意書は、一般的な審判請求書の様式及び作成要領について記載したものであって、審判請求の際のあらゆるケースを想定した上で、審判請求の手続要件を漏れなく盛り込むことはおよそ困難である。

したがって、仮に、原告らの本願出願手続について、原告ら主張の事情によって手続補正書や意見書の作成提出を原告政彦のみの名義で行っていたという経緯があったとしても、本件注意書に特許法132条3項についての注意の記載がなかったことをもって、審決を違法とすることはできない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

特許法が、その131条1項(平成8年法律第68号による改正前のもの)で、審判を請求する者は、「審判事件の表示」、「請求の趣旨及びその理由」と並んで「当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあっては代表者の氏名」を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない旨を規定するとともに、その132条3項で「・・・特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。」と明記していることに鑑みれば、同法は、特許を受ける権利の共有者が共同出願人である場合、これら共有者が拒絶査定不服の審判を請求するに当たっては、共有者の全員それぞれが審判を請求する意思のあることを、審査手続におけるそれまでの経緯と離れて改めて、請求書に表示する要式行為によって明示することを求めたものであり、これによって何人が請求人であるかを一律に確定しようとしたものであると解される。この趣旨はまた、同法14条本文(平成5年法律第26号による改正前のもの)が、原則として複数当事者の相互代表を認めながら、その例外となる場合の一つとして拒絶査定不服審判の請求を規定していることにおいても現われている。

しかるに、本件審判請求に係る審判請求書に請求人として原告政彦のみが記載され、原告新治の名が記載されていなかったことは前示のとおりであり、また、同請求書に原告新治も共同請求人であることを推認させるような記載があったことを認めるに足りる証拠はないから、本件審判請求は原告政彦によって単独でなされたものと認めるほかはない。

そして、本件審判請求が原告政彦によって単独でなされたものと認められる以上、その審判請求書の請求人の記載を原告ら両名に補正することは、請求書の要旨の変更をすることになることは明らかであるから、同法131条2項により、許されない。したがって、同法133条1項に基づく補正命令としてそのような補正を命ずることなく、同法135条により本件審判請求を却下した審決に原告ら主張の違法はない。

なお、上述したように解することは、結局、拒絶査定不服審判手続を包含する特許付与手続における手続的安定を図る目的によるものであるから、それが特許制度の趣旨ないし審判請求制度の目的に反するものということはできない。また、同法32条は、発明の内容自体によって特許を受けることができないとされる発明を列挙したものにすぎず、同条所定の発明に該当しない発明に係る特許出願であっても、上述の手続的規制を受けることはいうまでもなく、その手続的規制に従わなかった故に特許を受けられない事態に至ったとしても、やむをえないものといわなければならない。

2  取消事由2について

特許出願に対する拒絶査定の謄本を出願人に送達する場合に、出願人の求めがない場合にも、これに対する不服の審判請求に係る審判請求書の様式及び作成要領等を記載した注意書を添付することは、法令の要求するところではなく、出願人の便宜を考慮した特許庁のいわばサービスとして行われているものと解され、そのような注意書の性質上、その記載は、通常一般的な審判請求書の様式及び作成要領を示すことで足りるというべきであり、各具体的事件ごとの固有の問題については、審判請求人において、これに対処すべきものとするほかはないものであるから、審判請求を不適法として却下する審決の理由が、注意書に記載されていない事項についてのものであっても、そのことの故に、当該審決が直ちに違法となるものということはできない。また、本件注意書(甲第1号証に添付)の審判請求書の様式及び作成要領の記載は、特許法施行規則46条1項、様式第62に照らして、通常一般的な審判請求書の様式及び作成要領として特に不足があるということはできない。

原告らは、弁理士である代理人を介さず、出願者本人として本願出願手続を行っていたのであるから、本件審判請求をするに当たっても、特許法の関係規定を自ら調査する等の努力は払うべきであったのであり、手続補正書や意見書の作成を原告政彦のみが行っていた等の主張の事情を考慮しても、本件注意書の記載を非難する原告らの主張は、採用できない。

したがって、審決に原告ら主張の誤りはない。

3  以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条但書きを適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

【管理番号】第1021830号

【総通号数】第14号

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】判決公報

【発行日】平成13年2月23日(2001.2.23)

【種別】審決取消訴訟判決(特許)

【出訴番号】平成9年(行ケ)第202号この事件番号イキ

【判決言渡日】平成9年12月3日(1997.12.3)

【口頭弁論終結日】平成9年11月5日(1997.11.5)

【当事者1】

【呼称】原告

【氏名又は名称】若江谷政彦

【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区霞ヶ丘1丁目7番13号

【当事者2】

【呼称】原告

【氏名又は名称】若江谷新治

【住所又は居所】東京都日野市旭が丘4丁目7番5号シティハイツ2号棟811号

【当事者3】

【呼称】被告

【氏名又は名称】特許庁長官

【住所又は居所】東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

【指定代理人】小川宗一

【指定代理人】小池隆

【主文】

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

【事実及び理由】

第1 当事者の求めた判決

1 原告ら

特許庁が、平成8年審判第14194号事件について、平成9年6月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2 被告

主文第1項と同旨

訴訟費用は原告らの負担とする。

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告らは、平成3年1月7日、名称を「鉄道車両の輪軸、車輪及び軌道の敷設方法」とする発明につき、特許を受ける権利の共有者として共同で特許出願をした(特願平3-59799号)が、平成8年7月19日に拒絶査定を受けた。

同年8月22日、上記拒絶査定に対する不服の審判請求(以下「本件審判請求」という。)がなされたが、その審判請求書には、請求人として原告若江谷政彦(以下「原告政彦」という。)のみが記載され、原告若江谷新治(以下「原告新治」という。)の名は記載されていなかった。

特許庁は、同請求を平成8年審判第14194号事件として審理したうえ、平成9年6月27日、「本件審判の請求を却下する。」との審決をし、その謄本は、同年7月13日、原告政彦に送達された。

2 審決の理由の要点

審決は、本件審判請求は、特許法132条3項の規定によって、特許を受ける権利の共有者全員が共同して請求しなければならないところ、その一部の者である原告政彦によってなされたものであるから不適法な請求であって、その欠缺は補正することができないので、同法135条の規定により却下すべきものとした。

第3 原告ら主張の審決取消事由の要点

審決は、法令の解釈を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1 発明者の特許を受ける権利は、その苦心研究の成果を保護するとともに、優れた技術知識を世に公開して、技術の進歩、産業の発達に役立たせることを目的とする特許制度存立の根本趣旨に由来するものである。そして、特許法の審判請求の制度の目的の1つは、一旦は拒絶査定を受けたこのような発明者の特許を受ける権利を、特許権として成立させようとすることにある。

原告ら両名は、共同して本件審判請求をしたものであり、審判請求書に請求人として特許出願人全員の記載がなかったという規定違反により、審判請求が特許法135条所定の不適法な請求で補正をすることができない場合に当たるとして、これを却下する審決をすることは、特許制度存立の根本趣旨にも、審判請求の制度目的にも反するものである。このような規定違反は、特許法32条(平成6年法律第116号による改正前のもの。以下同じ。)各号所定の不特許事由のいずれにも該当しないのであるから、特許法133条1項(平成8年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき、請求書についての補正を命じて、補正の機会を与えるべきである。

したがって、審決には、法令の解釈を誤った違法がある。

2 原告ら両名は、住所地が離れているうえに多忙であって、本願出願後、手続補正書等の作成に十分な時間がとれなかったため、最初の手続補正の際に、特許庁に問い合わせたところ、原告ら両名のうちいずれか1名が作成すればよいとのことであったので、事後、手続補正書や意見書の作成提出は、原告政彦のみの名義で行ってきた。本件審判請求に当たっては、拒絶査定の謄本に添付された「拒絶査定(特許)注意書」(以下「本件注意書」という。)の「審判請求書の様式及び作成要領について」と題する部分の記載に則って審判請求書を作成して提出したが、本件注意書には、特許法132条3項に関する注意が全く記載されていなかったため、審判請求書は、従前の手続補正書や意見書の作成の場合にならって、原告政彦のみの名義で作成したものである。

特許出願手続は、弁理士である代理人を介さず、出願者本人で行うこともできるとされているのであるから、特許法132条3項の要件を満たさない審判請求が同法135条所定の不適法で、かつ補正をすることのできないものに当たるとするならば、そのような重要事項は、素人である出願者本人が誤ることのないよう、本件注意書に、同法132条3項に関する注意を記載するか、そのような注意を記載する余裕がないのであれば、出願者本人を誤らせるような不完全な記載をせずに、特許法第六章の各条を参考にして審判請求書を作成すべき旨、あるいは審判請求は弁理士に依頼すべき旨を記載すべきである。

したがって、本件審判請求に係る審判請求書に、請求人として原告ら両名の記載がなかったという規定違反は、特許庁の特許行政の進め方にも大きな原因があり、その不利益を審判請求人である原告らのみに帰することは、特許制度存立の根本趣旨からしても、審判請求制度の目的からしても誤りであって、審決には、法令の適用を誤った違法がある。

第4 被告の反論の要点

審決の判断は正当であって、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1 取消事由1について

原告らが主張する特許制度の趣旨及び審判制度の目的は争わない。

しかし、本件審判請求に係る審判請求書には、請求人として原告政彦のみが記載され、原告新治が共同請求人である明示の記載がなかったことはもとより、それを窺わせるような記載も一切なかったから、本件審判請求は、原告政彦によって単独でなされたものといわざるをえない。

そして、このように、審判請求書の記載により、本件審判請求が原告政彦によって単独でなされたものと認められる以上、その審判請求書の請求人の記載を原告ら両名に補正することは請求書の要旨を変更することに当たるものになるところ、特許法131条2項により、そのような補正は許されない。

したがって、本件審判請求が同法132条3項に反する不適法な請求であって、その欠缺は補正することができないとして、同法133条1項所定の補正命令を行わずに、同法135条により本件審判請求を却下した審決に原告ら主張の違法はない。

2 取消事由2について

本件注意書は、一般的な審判請求書の様式及び作成要領について記載したものであって、審判請求の際のあらゆるケースを想定した上で、審判請求の手続要件を漏れなく盛り込むことはおよそ困難である。

したがって、仮に、原告らの本願出願手続について、原告ら主張の事情によって手続補正書や意見書の作成提出を原告政彦のみの名義で行っていたという経緯があったとしても、本件注意書に特許法132条3項についての注意の記載がなかったことをもって、審決を違法とすることはできない。

第5 証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6 当裁判所の判断

1 取消事由1について

特許法が、その131条1項(平成8年法律第68号による改正前のもの)で、審判を請求する者は、「審判事件の表示」、「請求の趣旨及びその理由」と並んで「当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあっては代表者の氏名」を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない旨を規定するとともに、その132条3項で「・・・特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。」と明記していることに鑑みれば、同法は、特許を受ける権利の共有者が共同出願人である場合、これら共有者が拒絶査定不服の審判を請求するに当たっては、共有者の全員それぞれが審判を請求する意思のあることを、審査手続におけるそれまでの経緯と離れて改めて、請求書に表示する要式行為によって明示することを求めたものであり、これによって何人が請求人であるかを一律に確定しようとしたものであると解される。この趣旨はまた、同法14条本文(平成5年法律第26号による改正前のもの)が、原則として複数当事者の相互代表を認めながら、その例外となる場合の一つとして拒絶査定不服審判の請求を規定していることにおいても現われている。

しかるに、本件審判請求に係る審判請求書に請求人として原告政彦のみが記載され、原告新治の名が記載されていなかったことは前示のとおりであり、また、同請求書に原告新治も共同請求人であることを推認させるような記載があったことを認めるに足りる証拠はないから、本件審判請求は原告政彦によって単独でなされたものと認めるほかはない。

そして、本件審判請求が原告政彦によって単独でなされたものと認められる以上、その審判請求書の請求人の記載を原告ら両名に補正することは、請求書の要旨の変更をすることになることは明らかであるから、同法131条2項により、許されない。したがって、同法133条1項に基づく補正命令としてそのような補正を命ずることなく、同法135条により本件審判請求を却下した審決に原告ら主張の違法はない。

なお、上述したように解することは、結局、拒絶査定不服審判手続を包含する特許付与手続における手続的安定を図る目的によるものであるから、それが特許制度の趣旨ないし審判請求制度の目的に反するものということはできない。また、同法32条は、発明の内容自体によって特許を受けることができないとされる発明を列挙したものにすぎず、同条所定の発明に該当しない発明に係る特許出願であっても、上述の手続的規制を受けることはいうまでもなく、その手続的規制に従わなかった故に特許を受けられない事態に至ったとしても、やむをえないものといわなければならない。

2 取消事由2について

特許出願に対する拒絶査定の謄本を出願人に送達する場合に、出願人の求めがない場合にも、これに対する不服の審判請求に係る審判請求書の様式及び作成要領等を記載した注意書を添付することは、法令の要求するところではなく、出願人の便宜を考慮した特許庁のいわばサービスとして行われているものと解され、そのような注意書の性質上、その記載は、通常一般的な審判請求書の様式及び作成要領を示すことで足りるというべきであり、各具体的事件ごとの固有の問題については、審判請求人において、これに対処すべきものとするほかはないものであるから、審判請求を不適法として却下する審決の理由が、注意書に記載されていない事項についてのものであっても、そのことの故に、当該審決が直ちに違法となるものということはできない。また、本件注意書(甲第1号証に添付)の審判請求書の様式及び作成要領の記載は、特許法施行規則46条1項、様式第62に照らして、通常一般的な審判請求書の様式及び作成要領として特に不足があるということはできない。

原告らは、弁理士である代理人を介さず、出願者本人として本願出願手続を行っていたのであるから、本件審判請求をするに当たっても、特許法の関係規定を自ら調査する等の努力は払うべきであったのであり、手続補正書や意見書の作成を原告政彦のみが行っていた等の主張の事情を考慮しても、本件注意書の記載を非難する原告らの主張は、採用できない。

したがって、審決に原告ら主張の誤りはない。

3 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条但書きを適用して、主文のとおり判決する。

【所属】東京高等裁判所第13民事部

【裁判長】【裁判官】牧野利秋

【裁判官】石原直樹

【裁判官】清水節

【審判番号】平成8年審判第14194号

【審判請求日】平成8年8月22日(1996.8.22)

【審決分類】

P18.03-X(B61F)

【請求人】

【氏名又は名称】若江谷政彦

【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区霞ケ丘1丁目7番13号

【決定日】平成9年6月27日(1997.6.27)

【審判長】【特許庁審判官】平山孝二

【特許庁審判官】千葉成就

【特許庁審判官】上村勉

(21)【出願番号】特願平3-59799

(22)【出願日】平成3年1月7日(1991.1.7)

(31)【優先権主張番号】B61F 5/00

(32)【優先日】

(33)【優先権主張国又は機関】

(54)【発明の名称】鉄道車両の輪軸、車輪及び軌道の敷設方法

(65)【公開番号】特開平6-270808

(43)【公開日】平成6年9月27日(1994.9.27)

【最終処分】審決却下

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